「お姉ちゃん、おひなさまは出し終わったかい?」
夕食の席で、おじいちゃんが味々ちゃんに聞きました。
「できたわよ。私ひとりでほとんどやったのよ」
お姉ちゃんの得意気な答えを聞いて、タレ坊はぷんっと横を向きました。お内裏さまの刀で遊ぼうとして怒られたのです。
「あー、お野菜がいっぱいだー。これ、苦いんだよね」
おばあちゃんの持って来た皿の菜の花を見たタレ坊が、不満そうに言いました。おばあちゃんは、ニコニコ笑いながら、
「あのね、『春は苦味をとれ』って昔から言われているのよ。冬の間おうちの中にばかりいて体の中に溜まったものを、野菜の苦味が外に出してくれるの」
「へぇ〜」
「それに、こうすれば、野菜もおいしく食べられるだろう?」
と、野菜にくるっとお肉を巻いて、焼いてくれました。これなら、ちょっと苦い菜の花もおいしく食べられそうです。
ところが、
「そうよタレ坊、お野菜をたくさん食べないと、お内裏さまみたいにカッコいい男の人になれないんだからね!」
味々ちゃんが口を挟んだので、タレ坊は忘れようとしていたおひなさまのことを思い出して、またプンプンしはじめました。
「お姉ちゃんの好きなお内裏さまって、あの、この間チョコレートあげた子だろう。ボク、見たんだからなー」
あらあら大変です。味々ちゃんの頬が、おひなさまのボンボリより赤くなってしまいました。家族のみんなもびっくり。エバラ家にも、間もなく春がやってくるようです。
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